後鳥羽院時代の八条殿の化物狸
どんな伝承か
後鳥羽院の御時、八条殿に女院がおられたころ、その御所に化物がいると聞こえた。院の御所は、まだ六位であった庄田若狭前司頼慶を召し、かの化物を見顕して参れと仰せられて八条殿へ遣わした。頼慶は寝殿の几帳の後ろに入って待ったが六夜まで何事もない。七日目の夜、待ちかねてまどろんでいると、土器の割れを頼慶の頭にばらばらと投げかけるものがあった。目に見えるものはない。しばらくして頼慶の上を黒い筒先のようなものが走り越えたのを、下からむずと取り籠めた。見れば毛もない古狸であった。縛って院の御所へ率いて参ると太刀一腰と宿衣一領を賜り、その後化物はなかった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・大正・昭和初期)
博物学者・日野巌の古典的妖怪研究『動物妖怪譚』の前半(總論〜多爾具久)。