娘を毎夜責めた父の亡霊
どんな伝承か
十年ほど前、遠野の六日町であったか、父と娘の二人で住んでいる者があった。父親の方が死ぬと、その葬式を出した日の晩から毎晩、死んだ父親が娘のところへ出て来て、一緒に行こうと言った。娘は恐ろしがって親類の者や友達などに来てもらっていたが、それでも父が来て責めることは止まなかった。そうしてこれがもとで、とうとう娘は病みついてしまったので、夜になると町内の若者たちが部屋の内で刀を振り回して警戒した。すると父親は二階裏の張板に取り付いて娘の方を睨むように見ていたが、こんなことが一月ほど続くうちに、ついに来なくなったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。