女客と浪人
どんな伝承か
妖僧を取り逃がして主君の不興を買った吉見太郎左衛門は、生国の遠州浜松在に隠棲した。翌年の春の夜、村の入口の庚申塚のそばで、旅に難儀している若い女と乳母を見かけ、家に泊めてやった。乳母の持病が長引いて二人は逗留を続け、太郎左衛門は若い女に心を奪われていく。雨の夜、こっそり女の寝間に忍び込み肩に手をかけると、手がしびれ舌がこわばり、女が目を開いてにっこり笑った。気がつくと自分の寝床に座っていた。翌晩も同じことが起き、夢とも現ともつかない怪異が続いたという。
原典より
と、女はぱっちりと眼を見開いて莞(につ)と笑った。—— 日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ)
『日本の怪談(二)』は、田中貢太郎が書いた怪談・奇談の短編集である。著者が「私の村」と呼ぶ土佐の海村の迷信を語る「鷲」のほか、高岡郡や長岡郡、野根山など土佐の話を多く含み、越中の放生津や立山、銚子の利根川口、京の寺町、摂津の味泥、館林の城下、江戸の碑文谷などを舞台に、蟹や蛇の怪、鮭の祟り、山姑、亡者宿、切支丹の妖術を物語の形で書く。「蟹の怪」から「鶏物語」まで二十八篇を収め、友人や土地の人から聞いた話として語る篇もある。