中央会堂で外套を脱いだ河上肇
どんな伝承か
大学最後の学年、明治三十四年十一月の末に、河上肇は本郷の中央会堂で開かれた足尾鉱毒地の罹災民を救うための「婦人鉱毒救済会」の演説会を聴いた。主催者が義捐金を呼びかけたとき、ろくに金を持たない彼は、会場を出るときに着ていた二重外套と羽織と襟巻を脱いで渡した。下宿に帰るとさらに、身につけているもの以外の衣類をすべて行李に収め、翌朝、人を使って匿名で救済会の事務所へ送り届けさせた。受け取った側は精神に異常のある者の仕業ではないかと疑ったという。背景には、内村鑑三に勧められて手にした聖書の一節が彼の心を無条件に揺さぶったことがあった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊の世界 ― 小品集(田中千代松・心霊研究文庫III・1978年(昭和53年))
『霊の世界――小品集』は、田中千代松が新聞・雑誌に寄せた心霊研究の随筆や小論に手を加えて集めた心霊研究文庫の第三冊で、はしがきは一九七八年十一月の日付である。SPRの成り立ちや催眠術・超心理学の来歴、クルックスやフラマリオンを論じる文章のほか、土井晩翠・河上肇・福来友吉の挿話、平田篤胤が記した仙童寅吉、秋山真之の霊夢などを収める。「エッセイ種々」「群像」「ものがたり回顧」の三部に分け、多くの篇に初出の誌名と年月を添える。