新仲見世で擦れ違った故人
どんな伝承か
二〇〇一年四月八日の日曜、小倉嘉子は短歌の会に出るため浅草で電車を降り、混み合う新仲見世を浅草公会堂の方へ歩いた。向こうから来る人影に目がとまる。足利に住む藍染めの作家、大川仁だった。藍染めの上下に同じ布のベレーをかぶり、幸せそうな、それでいてどこか寂しげな顔で、少し上を見ながら通りの向こう端を過ぎていった。嘉子は二月に新聞で訃報を読んだことを思い出す。翌日、足利市役所へ電話をかけて確かめると、死は二月四日だった。のちに未亡人から、東京へ出るときは必ずその帽子だったと聞かされた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・昭和)
松谷みよ子『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』を小話単位で全699話収録。死の知らせ・予兆、あの世(地獄・極楽)へ行った話、死者からのサイン、生まれかわりなど、生死とあの世にまつわる現代の民話を全国から採集し地域・話者つきで収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明606話・市区町村判明489話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。