通夜の炉端を通り抜けた隠居
どんな伝承か
上閉伊郡土淵村のある家で隠居が亡くなり、その通夜の晩のことである。人々は疲れて、棺を安置した隣の間で横になっていた。嫁と年寄りの二人だけが炉の切ってある部屋に残り、眠らずに炭を継いでいた。夜も更けたころ、すっと物音がして誰かが入ってくる。振り返ると、いま棺に納まっているはずの当人が、死ぬまで着ていた着物のまま腰をかがめて歩いてきた。そして嫁のかたわらを素知らぬ顔で通り過ぎ、その拍子に着物の裾が触れて、そばに置いてあった炭取りがくるりと回った。人影が奥の間へ入っていくと、そこで寝ていた者たちが一斉にうなされたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・昭和)
松谷みよ子『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』を小話単位で全699話収録。死の知らせ・予兆、あの世(地獄・極楽)へ行った話、死者からのサイン、生まれかわりなど、生死とあの世にまつわる現代の民話を全国から採集し地域・話者つきで収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明606話・市区町村判明489話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。