八か月前に死んでいた従弟の来訪
どんな伝承か
『江戸から東京へ』の著者、矢田挿雲のもとへ、十年以上音信のなかった従弟が新聞社を訪ねてきた。受付に名刺を出し、京都の織物会社に勤めていると告げ、学生のころと変わらぬ堅い挨拶をする。母が昨年の暮に亡くなったと聞かされ、矢田は通知もよこさぬのかと叱った。茶を飲もうと連れ立って有楽町駅そばまで来たところで、従弟はすぐ戻るからと言い残して横丁へ駆け込み、それきり姿を見せなかった。十三年後、矢田が京都の家を訪ねて初めて知ったのは、その従弟が訪問の八か月も前に病死していたことである。名刺は戦災で焼け、証拠は何も残らなかった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・昭和(怪談集成))
日本各地の幽霊・人魂・生霊の実話怪談を十章+幽霊外伝に分類して集成する。