霊能者矢田老人が狐憑き病婦を落とす
どんな伝承か
医者はヒステリーだと言っていた病婦の家へ、ある日、同市から六里を隔てた多胡浦の矢田某という老人の霊能者が招かれた。この老人は卓越した霊能者で、当時は生きた弘法さんだと言われ、誰であれその前に座らせられると正体を看破されぬ者はなかったという。老人は病婦の居室から一室隔てた所に座り、爛々と眼光を放って一、二分間病婦を凝視した後、右手の二本の指先で畳を叩き、獣を呼ぶような態をした。すると病婦は乱れ髪の頭を振り立てながら寝床から急ぎ足に這い出し、老人の膝に顔を乗せた。老人は病婦の髪を掴んで叱り、首を抱えて口から霊息を吹き込んで突き放すと、病婦は青黄色の液を口から滴らせ、これで落ちると言って老人は立ち去った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・昭和初期(1927))
心霊研究家・岡田建文が昭和二年(一九二七)に著した『動物界霊異誌』。現代物理は宇宙の大物理の末梢に過ぎぬとの立場から、動物の霊異を迷信的虚妄として退けず証明すべき事例として収集する。蝦蟇(ヒキガエル)の章では、蛇を埋めてクリ茸を生やし食う怪(島根波根東村)、背に五寸釘を刺され口から怪光を吐く大蝦蟇(会津若松龍田屋、同時に幼児が高熱)、猫を灰色の液汁に溶かす怪(石見久利村)、慶応二年に浄土寺へ夜ごと現れた武士の正体が蝦蟇だった話を収める。