溺死する犬の人語の悲鳴
どんな伝承か
五、六年前のある夜、著者が自宅で訪客と囲碁をしていると、宅前の河の下流半町ばかりの地点で、若い犬がキャンキャンと悲鳴をあげ出した。声は次第に激しく凄まじくなり、ついには人間が早口に『嫌だがォー』と連呼するように皆に聞こえ、笑いながら聞き耳を立てる者もあった。悲鳴は約二十分の後に声量も細り、間歇的になって絶えた。翌朝、河に犬の溺死体が流れていると子供が騒ぐので出て見ると、首を縄で括られ、その先に四、五貫の石が付けてあった。前夜の悲鳴は、溺死を免れようと首だけ出して死力を尽くして泳ぎながらのものであったと知れ、哀れに思ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・昭和初期(1927))
心霊研究家・岡田建文が昭和二年(一九二七)に著した『動物界霊異誌』。現代物理は宇宙の大物理の末梢に過ぎぬとの立場から、動物の霊異を迷信的虚妄として退けず証明すべき事例として収集する。蝦蟇(ヒキガエル)の章では、蛇を埋めてクリ茸を生やし食う怪(島根波根東村)、背に五寸釘を刺され口から怪光を吐く大蝦蟇(会津若松龍田屋、同時に幼児が高熱)、猫を灰色の液汁に溶かす怪(石見久利村)、慶応二年に浄土寺へ夜ごと現れた武士の正体が蝦蟇だった話を収める。