尻を向けて犬を欺く俗説の失敗
どんな伝承か
著者が大学在学中のある日、級友ほか数名と戸山の原へ、桜草見物がてらの採集に行った。帰途、夕暮れになって荒川の岸を歩いていると、ある農家の犬が一匹、一行を見て吠え出した。一行が面白がって声を上げた結果、数匹が集まって来て猛々しく追って来た。そのとき著者が思いついたのは、犬に吠えかかられたときは四つん這いになり尻を前にして向かって行けば、頭のない犬が来たと思って逃げるという俗説である。実験も実見もしたことはなかったが、少し変わった同行の一人に勧めると勇敢に実行した。黒い学生服で黒犬に見えるには十分だったが、犬どもは一向に威かされず、かえって噛みつかんとする形勢になり、一同で救い出して事なきを得た。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
科学的教養(小泉丹・小泉丹・科学論・昭和(戦中))
生物学者・小泉丹『科学的教養』(戦中刊)。国民の科学性とは科学知識の普及ではなく科学的態度であるとし、科学的・非科学的の境界を吟味したうえで、怪異談を科学的に検討する。