月夜の蕎麦畑を川と思い込んだ男
どんな伝承か
夕食を終えて家族が話していると、海尻から越えてくる小さな峠のあたりで人を呼ぶ声がした。外へ出ると、湖を渡って助けを求める叫びが届く。近所の四、五人で駆けつけたところ、男は蕎麦畑の中を行きつ戻りつしていた。男の話では、峠に登ると月明かりに湖が光り、森は黒く映え、八ヶ岳や浅間山まで見えるので腰を下ろして休んだ。立ち上がって歩き出した途端、深い川にはまり込んで出られなくなったのだという。花盛りの蕎麦が水のように白く光り、夜露が素脛に冷たく触れたので、川と思い込んだのだった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
南佐久郡誌 民俗編――伝説・世間話(南佐久郡(編)・南佐久郡誌・自治体史(民俗))
『南佐久郡誌 民俗編』第十三章所収の伝説・世間話。長野県南佐久郡に伝わる口承を採録する。