京畿の迷信――丙午
どんな伝承か
妖怪博士・井上円了は、明治三十九年の春に大和地方を一巡した。この年は丙午に当たり、丙は十干の陽火、午も十二支の火の気の盛んな方角で、干支ともに火の気の最も強いものが重なるため、その年は必ず大火事があるであろうとの評判が京都中に広まった。もともと火事の少ない京都では人々の恐れも甚だしく、市中は大いに騒ぎ、各戸みな寝ずの番をする有様であった。京都の有志者が円了の巡回先を訪ね、大和からの帰路に立ち寄って市民に「丙午は恐るるに及ばぬ」という演説をしてくれと依頼したという。三都は文明が高いはずが迷信が強い、その一例とされる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・明治(妖怪学))
『妖怪博士』井上円了による『迷信の諸相・宗教の真相』。迷信を道理に背くことを誤って信じる心理と定義し、妖怪学の立場から全国を巡遊して各地の迷信を実地に報告・批判する(迷信打破)。