廃村の平らで沸かした野天風呂
どんな伝承か
北アルプスの陰にひろがる有峰の平らには、かつて人が暮らした廃墟が残っている。黒部の源流へ入る前の一日をここで休むことになり、釣り好きは岩魚を探しに出かけたが、著者は風呂を作ると言い出した。仲間三人は相手にしないので一人で取りかかり、小屋の隅から底の抜けた四角い箱を運び出し、トタンを張って隙間にぼろ布を詰め、石の上に据えて桶に仕立てた。藪から樋を渡し、ピッケルで百メートル先の水流まで溝を掘ること四時間、やがて泥水が垂れはじめ、しばらくすると澄んだ水になった。仲間も加わって下から焚火を燃やし、湯気の立つ風呂が沸いた。底が熱いので下駄を履いて入り、首だけ出して盆地を見まわしながら髭を剃ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・昭和(戦後))
西丸震哉『山とお化けと自然界』を篇単位で収録。完全装備で岩小屋前を通過する遭難者の幽霊目撃、木曾御岳の人魂たち、カラステングがタコを食う、亡き兄との交信やテレパシー(死者との通信)、幽霊の仮説・怪談といった山岳怪異譚を軸に、呪い殺しの実験・雨やみの術・日蝕と雨やみの術などの呪術、山の昆虫・メスネコの生涯・ヤマネとムササビ・ミミズク等の自然観察、酒・山旅・会津の秘境/栗駒山密林などの紀行随想を収める。