四
どんな伝承か
著者の母方の叔父・小平定衛門が若い頃、疫病にかかり大病となって脈が絶えた。集まった医者は皆匙を投げて去ったが、六十過ぎの町医だけが残り、腹にまだ温かい所があるから必死とは言えぬとして、耳元で代わる代わる名を呼び続けるよう教えた。半時ほど名を呼び続けると病者は息を吹き返し、薬湯を与えられて快復し、その後十七、八年生きながらえたという。定衛門は蘇生した後、覚えがなくなった途端、夢から覚めたような朧月夜の野原に出て、あたりに家も人もなく、ただ広々とした芝原が広がるばかりであったと看病の者たちに語った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊の世界 ― 小品集(田中千代松・心霊研究・エッセイ・昭和)