人妻と木蔭へ行く話
どんな伝承か
踊っていて女を見ると誘って木蔭で楽しむのが癖のようになった権どんは、その夜も何か獲物はないかと物色していた。踊りの渦の中に一人、いかにもしなやかに踊っている女があり、手拭で覆面のように顔を隠してはいたが、踊る拍子に真赤な下裳が翻って白い腿をちらちらと見せていた。権どんが暗い木蔭を指さして誘うと、女も事情を察して頷いた。ところが木蔭を出ようとして樹の枝に覆面を取られた女の顔を月の光で見て、権どんは驚いた。近在で厳格そのもののような旧家の奥様だったからである。
原典より
「行かんか、なあ?」踊つてゐて女と見ると、さう誘つて木蔭で楽しむのが癖のやうになつた權どんは、今宵も何か獲物はないかなと、精一杯踊るやうに見せながら、それとなく物色にかけてゐた。—— 阿波えゝぢやないか(山口吉一・民俗・幕末世相史・昭和(対象は幕末)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
阿波えゝぢやないか(山口吉一・民俗・幕末世相史・昭和(対象は幕末))
概観篇では御降り(御札降り)に関する騒擾、伊勢神宮への御蔭参り・抜参りを慶安・宝永・明和・文政・慶應と時代別にたどり、慶應のええじゃないか、阿波のええじゃないかへと展開。幕末阿波(徳島)の御札降り・群集乱舞・世直し的民衆運動を、各事例の冒頭に【日付】【場所】【人物】【状況】マーカー付きで網羅した民俗・世相史。