和歌山の、熊野(ほんぐう)の奥の栗山の医者
どんな伝承か
和歌山の熊野、本宮の奥の栗山の医者が、本宮の庄屋の集まりに出かけた。帰り道、こうもり傘をさして本宮と四村のあいだにある大峠にさしかかると、傘の骨の上をぷいぷいと渡るものがある。怪しいやつだと傘を投げ、抜き打ちに斬りつけた。三度目にやっと手応えがあり、切っ先三寸に血のりがついた。それは天狗で、「今夜のわざもんにはかなわん、やられた」と叫んだ。空が鳴り、友天狗が「七十五なびき、つづこうか」と呼ばわったが、斬られた天狗は見事々々と褒め、ふっと気配は消えた。医者は峠の地蔵のそばの水飲み場で血のりを洗ったといい、以来栗山の親戚一族は大峠のかげ山の水を飲まないという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 1 河童・天狗・神かくし(松谷みよ子・現代民話考・1970年代)
松谷みよ子『現代民話考 1 河童・天狗・神かくし』を小話単位で全532話収録。河童・天狗・神かくしにまつわる現代の民話・怪異譚を全国から採集し、地域・話者つきで収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明530話・市区町村判明477話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。