岩穴の鬼面様と返らぬ椀
どんな伝承か
険しい山の岩の空洞に鬼面様が住み、近隣の人に椀を貸したという。婚礼や葬式で椀が入り用になると、村人は必要な数を紙に書いて空洞の入口へ置く。翌朝には、書いたとおりの数の椀が入口にきちんと並べられている。百人前でも二百人前でも望みどおりで、いずれも立派な塗りの品であった。使い終えた椀を洗って元の場所へ返すと、夜のうちにどこへともなく消えた。ところがある時、借り手が誤って一人前を割り、数多いなかの一つくらい分かるまいと足りないまま返した。翌朝、椀はいつもどおり消えていたが、それきり、いくら頼んでも貸してもらえなくなったという。鬼面様がいたとされる市場地区の山には、切り立った岩の下に今も祠が残る。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第8巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房)・現代(編纂)/伝承(口承))
『日本伝説大系 第8巻』所収の「文化叙事伝説」および「自然説明伝説」全133話(滋賀・京都・兵庫=近畿)を、各話の伝承地(市町村〜字レベル)とともに収める。