宝殿を震わせた師長の秘曲
どんな伝承か
太政大臣師長は官を止められて東国へ流された。保元の昔は南海の土佐、治承の今は東関の尾張である。罪なくして配所の月を見たいというのは心ある者の願いなのだからと、師長は取り乱しもしなかった。鳴海潟を遠く望み、常に月を眺め、浦風に嘯き、琵琶を弾じ和歌を詠んで日を送る。ある時、当国三の宮の熱田明神に参詣し、その夜、神への手向けにと琵琶を弾じ朗詠した。土地の者に音曲を解する者はなく、老人も女も漁夫も首を垂れて耳を澄ますばかりであったが、妙を極めれば自ずと感を催すもので、居並ぶ人々は身の毛もよだつ思いをしたという。夜が更けて秘曲を弾ずると、神明が感応に堪えず宝殿が大きく震動した。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第7巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第7巻』は、愛知・静岡・岐阜・長野の四県の伝説を集めた伝説資料集の一巻である。笠寺観音や日本武尊から天狗・山姥・八百比丘尼・夜叉ヶ池、石や池や塚の由来、白米城・一夜山まで九十七の項目を立て、口承を中心とする伝承を収める。各項目は伝承地を明記した例話を冒頭に置き、『日本伝説名彙』などの対応する題名を添えたうえで、〔類話〕〔参考〕〔文献〕を続けて近世以前の記録の原文まで示す。