天狗に浚われた春舜坊
どんな伝承か
奈良の東大寺に、二十年近く仕えてきた春舜坊という中年の僧がいた。学問や勤行に励んできたが出世は叶わず、朋輩から「古坊」と呼ばれても気にとめない心境に達していたある小春日和の日、経典の書写をしていると、柿色の法衣をまとった大入道が背後に現れ、いきなり衿首と帯をつかんで天空高く舞い上がった。東大寺の堂塔も村も山野もみるみる眼下に消え去り、気づけば山中の樹間の広場に据えられ、真っ赤な法衣の大入道たちが取り囲んでガヤガヤと相談する様子に、春舜坊はただ震えるばかりであったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪(早川純夫・早川純夫・妖怪史・昭和)
早川純夫『日本の妖怪』。神話時代から江戸まで、日本の妖怪と妖異を歴史の流れに沿って描く。