小蛇の怪口
どんな伝承か
島根県安濃郡刺鹿村大字西川に伝六という馬追職があった。夏のある日、素足に草鞋履きで居村の猪谷の山奥へ草刈りに行き、仕事の合間に木の根に腰かけて空を眺めながら煙草を吸っていると、右足の親指の腹を何かが撫でる感じがした。見ると三尺ばかりの島蛇が来て、舌先で親指の腹を舐めている。やがて蛇は口を開いて親指を呑みにかかり、次々と四本の指を付け根まで呑み込んだ。伝六は驚いて、熊笹の小枝で煙管の脂を掬い出し、蛇の口のあたりに塗りつけると、蛇は呑んだ指を吐き出し、下手の渓川の方へ逃げて行ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・昭和初期(1927))
心霊研究家・岡田建文が昭和二年(一九二七)に著した『動物界霊異誌』。現代物理は宇宙の大物理の末梢に過ぎぬとの立場から、動物の霊異を迷信的虚妄として退けず証明すべき事例として収集する。蝦蟇(ヒキガエル)の章では、蛇を埋めてクリ茸を生やし食う怪(島根波根東村)、背に五寸釘を刺され口から怪光を吐く大蝦蟇(会津若松龍田屋、同時に幼児が高熱)、猫を灰色の液汁に溶かす怪(石見久利村)、慶応二年に浄土寺へ夜ごと現れた武士の正体が蝦蟇だった話を収める。