裏口から来る荒神札の押し売り
どんな伝承か
年の暮れになると、細長い紙をおしいただくようにして家々を回り、売り歩く者がいた。一昨年の暮れには裏口から入って来て、荒神様の札だから竈の壁に貼れと言い、聞き取れない早口で一分ばかり唱えたあと、祓いをしておいたから札と合わせて五〇円だと言う。主婦はあっけにとられて銭入れから金を出したが、相手は礼も言わずに去った。翌年の暮れ、二〇日を過ぎてまた同じ男が現れたので断ると、竈のない家はないだろう、災難よけだ、断れば不幸が起きる、鼻紙にしてもよいではないかと食い下がり、最後は来年も貧乏するかと捨てぜりふを残して出て行った。下関市彦島老町の主婦の投書である。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代の迷信(今野圓輔・今野圓輔・民俗学・昭和(高度成長期))
民俗学者・今野圓輔が高度成長期の日本に残る迷信を社会派ルポとして告発・分析した一冊。序章では、静岡県掛川市で異性双生児を畜生腹と恥じた母親の母子心中事件、青森県三本木市でキツネ落としと称して女を火あぶりにした殺人事件など、迷信が現代も殺人・心中を生む『黒い習俗』を突きつける。