位牌を背負う九十五歳の老人
どんな伝承か
柳田国男は『明治大正史 世相篇』の「家永続の願い」の冒頭に、一つの新聞記事を引いている。門司では師走なかばの寒い雨の日に、九十五歳になるという老人が傘一本も持たずにとぼとぼと町を歩いていた。警察署に連れてきて保護すると、荷といっては背に負うた風呂敷包みの中に、ただ四十五枚の位牌があるばかりだったという。柳田は、こんな年寄にもどうしても祭らねばならぬ祖先があったのだとし、位牌の漂泊はこの老人にとって身一つの不幸ではなかったと書いている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幻視する近代空間 ―迷信・病気・座敷牢、あるいは歴史の記憶(川村邦光・現代(近代史研究))
民俗学者・川村邦光が、近代日本が在来の習俗や憑きもの信仰をいかに〈迷信〉として再編し、狐憑きを脳病・神経病・憑依妄想へ病理化したかを、具体的事件・事例に即して論じた近代史。