土手町某家之怪事(鶏の怪)
どんな伝承か
文政五年閏正月、錦見土手町に住む貞蔵という者の家で鶏の怪事があった。飼っていた鶏がしきりに夜鳴きをするので、貞蔵は不吉だと思い、鶏を捕えて藁苞に入れ首だけ出して前の川へ流した。その夜、鶏は牛野谷の水越に流れ掛かっていた。同じ夜、牛野谷村の百姓某の夢に男が一人来て、自分は土手町の貞という者の手飼いの鶏である、あの家の先祖の位牌が自分の塒の上にある、家の滅びる凶事ゆえ告げようと夜鳴きしたのに憎まれて川に流された、助けてくれと言った。翌朝行くと果たして鶏が掛かっていた。貞の家では仏壇の位牌が一枚足りず、鶏の塒の上から見つかったので大いに驚き、この鶏をもらい受けて念入れに飼ったという。
原典より
文政五年閏正月、錦見土手町に住居せる貞蔵と云へる者の家に、鶏の怪事あり。—— 岩邑怪談録(広瀬喜尚(編:藤田葆/増補:今田純一/付録:静間密)・天保年間成立・明治期増補(原本明治四十三年成稿)/昭和51年(1976)岩国徴古館刊) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(編:藤田葆/増補:今田純一/付録:静間密)・天保年間成立・明治期増補(原本明治四十三年成稿)/昭和51年(1976)岩国徴古館刊)
岩国藩士・広瀬喜尚(仁兵衛、天保頃の博識家)がまとめた郷土怪談集を核に、明治期に今田純一(散木園主人)が二十余条を増補(追加)し、さらに藤田葆が古老聞き取りの『続怪談録』・歴史的瑞兆を集めた『実事談』・幼童の変死記録を集めた『変死部』を継ぎ、巻末に静間密の怪火・投石怪五話を付録とした、岩国・錦見・横山周辺を舞台とする総合怪異録。