墓原の道心者、幽霊に逢ふ事(見出しなし)
どんな伝承か
墓原のあたりに柴の庵室を結んで、一念という道心者が住んでいた。夏の夕暮れ、縁に出て涼んでいると、そよそよと吹く風に青葉の木陰で揺らぐものがある。怪しんでよくよく見れば、白装束に髪をさばいた姿が、地面から三尺ほど上を宙に歩いていた。道心者は恐ろしくなってそのまま内へ這い入り、戸を閉めた。すると幽霊は窓から頭を覗かせて内を見回した。一念は驚き、心は糸のようになって「阿弥陀仏即滅無量罪」と唱えた。すると嬉しげな声がして、幽霊は消え失せたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(編:藤田葆/増補:今田純一/付録:静間密)・天保年間成立・明治期増補(原本明治四十三年成稿)/昭和51年(1976)岩国徴古館刊)
岩国藩士・広瀬喜尚(仁兵衛、天保頃の博識家)がまとめた郷土怪談集を核に、明治期に今田純一(散木園主人)が二十余条を増補(追加)し、さらに藤田葆が古老聞き取りの『続怪談録』・歴史的瑞兆を集めた『実事談』・幼童の変死記録を集めた『変死部』を継ぎ、巻末に静間密の怪火・投石怪五話を付録とした、岩国・錦見・横山周辺を舞台とする総合怪異録。