病院に築かれた芦原帝国
どんな伝承か
「芦原将軍」と呼ばれた芦原金次郎は、東京府癲狂院から巣鴨病院、松沢病院と名を変えた府立の精神病院に、明治十八年から昭和十二年までおよそ半世紀にわたって入院していた。新聞に初めて登場したのは明治十三年、大蔵省へ出かけて気炎を上げたという記事である。院内では患者に命じて紙屑や木で大砲を作らせ、菊の紋章を配した将軍旗を定め、芦原紙幣局の役員に患者を任命する辞令まで出した。芦原太陽暦を作って「即位二万五千四年」と称し、日清戦争の後は勅語を出して芦原帝と署名することが多かったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幻視する近代空間 ―迷信・病気・座敷牢、あるいは歴史の記憶(川村邦光・1989年(平成元年))
『幻視する近代空間 ―迷信・病気・座敷牢、あるいは歴史の記憶』は、川村邦光が近代日本の民衆の心性をたどった論考で、あとがきは一九八九年十二月の日付である。明治の「血税一揆」の流言、トラホームと〈迷信〉、狐憑きと精神医学、「脳病」「神経病」、座敷牢と精神病者監護法、芦原将軍の誇大妄想と出口なおの神がかり、祖先教と靖国による霊魂の管理を、新聞記事や民話、医学書、調査報告から読み解く。はじめにの後に三部と終章を置き、あとがきで結ぶ。