船形屋敷の怪異と精神病
どんな伝承か
京都の上嵯峨鳥井本小坂、亀山御陵の傍らに、船形屋敷と呼ばれる四百坪ほどの土地がある。三十年ほど前までは、大中臣氏の末裔で硯作りを家業とした田中作治郎の持ち物だったが、人手を経て京都の染工業者花村萬壽治のものになった。昭和三年の暮れ、花村がここに隠宅を建てて住むと、たちまち重い脳の病にかかり、屋敷を去って心霊治療家薄出然道の施術でようやく治った。翌年十月ごろには、愛宕山のケーブルカー工事の請負業者荒木某が借りて住んだところ、その老母がひどい精神病になり、荒木は恐れて移っていった。界隈では、屋敷に何かの障りがあると噂されるようになった。
原典より
先づ花村氏が昭和三年の暮、爱に隠宅を作りて住んだ所、忽ちにして大變な脳病に罹ったので、氏は驚いて共處を去り、京都寺町の心靈治療家薄出然道氏の施術を受けて漸く全快するに至つたのである。—— 心霊と神秘世界(福来友吉・1932年(昭和7年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
心霊と神秘世界(福来友吉・1932年(昭和7年))
『心霊と神秘世界』は、文学博士福来友吉が著し、昭和七年に人文書院から発行された心霊研究と仏教思想の書である。御船千鶴子・長尾夫人・三田光一らの透視と念写をはじめ、霊の幻化、念動、物質化など国内外の心霊現象を実験記録とともに論じ、後半では自我・神秘世界・霊と生命を真言密教や華厳の教えによって説く。全五編からなり、この本文は昭和五十七年に心交社が出した復刻版で、梅原正紀・井村宏次らの「解説研究編」を付している。