竈の中の顔
どんな伝承か
江戸の相場三左衛門は箱根の山中の温泉宿に二十日余り湯治し、宿の主人と碁を打って退屈をしのいでいた。そこへ黒い破れ衣の痩せた僧が現れ、互角の腕前で毎日のように碁を打ちに来るようになった。主人は、この山には噂をすると命を取られる怪しい坊主がいると言った。僧が来ない日、三左衛門は若党を連れて散歩に出、谷向こうの岩陰に僧の庵を見つけて立ち寄った。僧は嫌な顔をしつつ茶を沸かすと言ったが、竈の下から青ざめた人の顔がぬっと出ては、僧に睨まれて引っ込んだ。若党が布施を納めようと仏壇の扉を開けると、三面六臂の怪しい仏像の前に男髷の生首が据えてあった。
原典より
茶釜の下の竈の下から人間の顔がすうと出て来た。—— 日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年))
『日本の怪談』は、田中貢太郎の怪談を昭和四十五年桃源社刊『日本怪談全集』から抜き出した文庫本で、昭和六十年十二月に河出書房新社から発行された。「宝蔵の短刀」「八人みさきの話」など土佐の城下や村の話をはじめ、江戸・京・吉野などを舞台にした幽霊・狐狸・猿・魔物の話を、会話の多い語り口で収める。二十七篇の後に尾崎秀樹の解説を付し、高知に生まれた作者の生涯と怪談・妖異譚への傾倒をたどっている。