貧乏神物語
どんな伝承か
文政四年の夏、番町に住む旗本の用人が、主家の費用を工面しに下総の知行所へ向かっていた。草加の宿が近づいた頃、みすぼらしい旅僧が横に並び、煙草の火を借りた。旅僧は番町の主家から来たと言い、用人が見覚えがないと咎めると、主家の昔から近頃までの出来事を寸分違わず語ってみせた。そして、自分は三代前からその邸に住む貧乏神で、ようやく数が尽きて隣の邸へ移るから主家の運も開けると告げ、他言を禁じた。気づくと旅僧の姿はなく、そこはもう越谷であった。知行所では思いのほか多くの金が集まり、用人は喜んで帰ったという。
原典より
用人がはっと気がついた時にはもう怪しい旅僧はいなかった。—— 日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年))
『日本の怪談』は、田中貢太郎の怪談を昭和四十五年桃源社刊『日本怪談全集』から抜き出した文庫本で、昭和六十年十二月に河出書房新社から発行された。「宝蔵の短刀」「八人みさきの話」など土佐の城下や村の話をはじめ、江戸・京・吉野などを舞台にした幽霊・狐狸・猿・魔物の話を、会話の多い語り口で収める。二十七篇の後に尾崎秀樹の解説を付し、高知に生まれた作者の生涯と怪談・妖異譚への傾倒をたどっている。