ムジナ窪の太鼓と足音
どんな伝承か
箱根の山奥で育った山木一人は、中学二年の夏休み、手に入れたばかりのキャンプ道具を使おうと、禁止を承知で仲間と芦ノ湖畔のムジナ窪という砂浜にテントを張った。夜中に太鼓のような音で全員が目を覚まし、テントの中で身を寄せていると、音は近づいて複数のでんでん太鼓の響きとなり、砂浜を歩く大勢の足音がテントの周りを回り始めた。その後の記憶はなく、気づけば朝だった。家族に叱られて聞いた話では、ムジナ窪では十年ほど前の北伊豆地震で工事現場の飯場ごと十数人が土砂崩れにのまれ、一人も見つかっていないという。
原典より
すると音がどんどん近づいてきて、ついには複数のでんでん太鼓のような音とともに砂浜を歩く大勢の人の足音がテントの周りを回り出した。—— 水辺の怪談2(水辺の怪談シリーズ) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
水辺の怪談2(水辺の怪談シリーズ)
『水辺の怪談2』は、釣り人たちが釣り場や釣り宿で出会った怪異を、本人の筆で綴った体験記を集めた本である。伊豆半島や南紀の磯、黒部峡谷、芦ノ湖、中禅寺湖、北海道の渓流などを舞台に、金縛り、女の霊、謎の足音、自殺のあった場所の怪などを、釣りの様子とともに語る。「海の章」と「川・湖の章」に分かれ、各編の冒頭に筆者の住まいや職業、得意な釣りを記した紹介を置く。