髪を抜き取られて尼になった老婆
どんな伝承か
駕籠に頭を突き入れて突き戻された老婆の額に門跡の手がかかったのを遠くの者が見て、特別に手を触れられたのだと騒ぎ出した。人々は老婆の周りに集まり、手の当たったあたりを我も我もと触ろうとする。身をかわそうとするうちに囲みは厚くなり、一人の若い男が老婆の髪を二、三本つまんで抜き取った。次いで老人が一つまみ抜き、やがて皆が争って指をかけた。髷は崩れ、老婆は助けてくれと手を振って悶えたが、信心に夢中の耳には届かない。老婆が気を失って人波に揉まれ、髪が一本もなくなって尼のような頭になると、人々は老婆を捨て、行列を追って雪崩れていった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ)
『日本の怪談(二)』は、田中貢太郎が書いた怪談・奇談の短編集である。著者が「私の村」と呼ぶ土佐の海村の迷信を語る「鷲」のほか、高岡郡や長岡郡、野根山など土佐の話を多く含み、越中の放生津や立山、銚子の利根川口、京の寺町、摂津の味泥、館林の城下、江戸の碑文谷などを舞台に、蟹や蛇の怪、鮭の祟り、山姑、亡者宿、切支丹の妖術を物語の形で書く。「蟹の怪」から「鶏物語」まで二十八篇を収め、友人や土地の人から聞いた話として語る篇もある。