金剛杖で正気に返した男遍路
どんな伝承か
弘化元年三月、記録者の野島は五台山の高善院に立ち寄り、律師から岩原村の騒ぎについて話を聞いた。律師によると、五、六年前、近くの若者たちが三十歳ほどの男の遍路を犬のように首に縄をかけて連れて来た。狐狸に憑かれたらしく落ち着きがないので、律師は金剛杖を手に大声で妖魔を叱りつけ、敷居や大石を杖で打つと、男は縁の下へ逃げ込み、やがて仰向けに倒れて正気に戻った。男は阿波の侍で、両親と遍路に出てはぐれたと語り、翌年も礼に来たという。
原典より
良い鹽梅に、こいつが多少効験がありまして、右の發狂者はびつくりして縁の下へ逃げ込みました。—— 二つの怪奇な心霊現象(浅野和三郎・1940年(昭和15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
二つの怪奇な心霊現象(浅野和三郎・1940年(昭和15年))
『二つの怪奇な心霊現象』は、浅野和三郎が著し、心霊科学研究会が昭和十五年に発行した記録で、昭和二十七年に再版された。前篇は弘化元年、土佐国長岡郡豊永郷岩原村で村人六十四人が狂乱し、祈禱が効かず藩の役人が空鉄砲と犬で取り押さえた事件を、野島通玄の記録『甲辰奇怪記』の現代語訳で紹介する。後篇は山梨県北巨摩郡穂坂村の旧家の娘かね代に曾祖父横森市兵衛の霊が懸かり、盗まれた不動明王の掛軸が戻った因縁を、著者の調査と甲州訪問記を添えて述べる。