壁から出る死神の腕との一週間
どんな伝承か
昭和四十六年十一月六日の早朝、突然の心筋梗塞に倒れ、四か月の入院となった。最初の一週間は生死の境をさまよい、毎晩のように寝台の脇の厚いコンクリートの壁から真っ黒な死神の腕が伸びてきて、体をひとつかみにし、行こうと言って引きずり込んだ。真っ逆さまに落ちていく先は限りない暗黒で、上のほうがあの世へ向かう道だと分かる。そのとき自分の頭の中では大きな桃色の球が回り、長い尾が下へ伸びて臍のあたりで前後に分かれていた。死神と長く言葉を交わし、せっかくこの球ができたのだからいま死ぬわけにはいかないと言い張って、一週間ほど暗黒と行き来したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・昭和)
松谷みよ子『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』を小話単位で全699話収録。死の知らせ・予兆、あの世(地獄・極楽)へ行った話、死者からのサイン、生まれかわりなど、生死とあの世にまつわる現代の民話を全国から採集し地域・話者つきで収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明606話・市区町村判明489話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。