岸壁に漂う花束と翌朝の霊
どんな伝承か
弘前大学の研究室にいたころ、大高興は恩師や友人の医師とともに下北のある市を訪れ、知人のいる病院に泊まった。深夜三時半、廊下を行き来する足音で目が覚める。閉めたはずの扉が細く開き、隙間から黒い影がよぎった。用向きを尋ねると、寒い、とても寒いのだと哀れな声が返り、追って出ても廊下には誰もいなかった。朝になって院長は、この病院が大戦末期の空襲で負傷した海軍兵であふれ、床が血に染まったことを語った。大高は前日の昼、荒れた岸壁で真新しい花束が波間に漂うのを見ていた。海に沈んだままの兵たちの代わりに、誰かが訴えに来たのだろうと彼は考えている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
私は幽霊を見た(東雅夫(編者)・昭和中期~後期(推定1970年代~1980年代))
私は幽霊を見た=怖い怪異体験(東雅夫編)/人魂・鬼火・狐火/機関車・電車の怪/各地の幽霊目撃談/不気味な怪音と怪異