大正一四年の河守蚕業学校でのこと
どんな伝承か
大正一四年、河守蚕業学校でのこと。正面の台の上にものものしくラジオが据え付けてあり、段を囲んで針金が引き回してあるのは、やんちゃな生徒が触らぬための予防線であろうか。生徒たちは肘を突っぱり固唾をのんで、生まれて初めて対面するこの機械の声を聞こうとした。しかつめらしい顔の業者がやおら立って機械をいじると、ぴーぴーがあと鳴る。たしかに機械の音ではあるが人の声ではない。今に何かしゃべると、ますます聞き耳を立て、しびれの切れたのも忘れて待ったが駄目だった。出るのは相変わらず雑音ばかりで、ついに半日たち、一言も聞かぬままぐんにゃりとなって講堂を出たという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 12 写真の怪・文明開化(松谷みよ子・現代民話考・1990年代初期(平成初期))
松谷みよ子『現代民話考 12 写真の怪・文明開化』を小話単位で全550話収録。心霊写真など写真の怪と、文明開化期の怪異にまつわる現代の民話を全国から採集し収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明496話・市区町村判明377話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。