境で方向感覚を失う狐の怪
どんな伝承か
昭和十九年ごろ、ある女性が精進場にある自分の家の畑へ向かったときの体験である。まっすぐ畑を目指していたはずなのに、気づけば三笠のほうへ進んでいた。おかしいと考えるうちに、新道の方角へ向かっているような、逆へ歩いているような感覚に陥り、頭の中がぐるぐると回り出した。ふと我に返ると三笠の奥にいたという。あの近くにはよく狐がいたものだと、彼女は振り返っている。名のある狐の話が薄れたのちも、見慣れた土地で方角を失う出来事は、境に現れる狐のイメージと通じる形で語られていた。
原典より
自分は畑の方に真直ぐ行ったつもりだったの、それが三笠の方まで行っちゃったの。—— 軽井沢町誌 民俗編 より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
軽井沢町誌 民俗編
『軽井沢町誌 民俗編』は、軽井沢町の町誌の民俗編である。この写しは「不思議な境」の見出しの下で旧道を論じる一段に始まり、第二節「怪異のフォークロアより」では、旧軽井沢の周縁の峠や辻に結びついた名のある狐の話、墓地の跡に建った別荘の怪談、別荘地で道に迷う話、メディアが広めた怪談を、話者の聞き書きを引いて論じる。続く第三節「創出された『軽井沢』」は、原野から造られた「大自然」を論じる途中で切れる。