院中の怪
どんな伝承か
近衛院に仕えていた庭番の翁は、元慶年間のある冬、院中に鬼が現れたという事件を、起きてから十日ほど後に知った。内裏の出来事だけに厳重な箝口令が敷かれたが、噂は瞬く間に院内へ広まり、「朝廟の弁官が鬼に喰われたそうな」と人々は震え上がった。ある朝、出仕に遅れた吏生が太政官に駆けつけると、弁官の車駕はすでに着いているのに詰所は灯もなく真っ暗で、しんと静まり返っていた。不審に思い火を取りに行く途中、居合わせた雑色に尋ねると、弁官はたしかに東の廟に入ったはずだと繰り返し告げられ、話は食い違ったままとなる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪(早川純夫・早川純夫・妖怪史・昭和)
早川純夫『日本の妖怪』。神話時代から江戸まで、日本の妖怪と妖異を歴史の流れに沿って描く。