皆川一郎平の天狗遊行
どんな伝承か
群馬県高崎町の松平大和守の家臣、皆川一郎平は生来体が弱く、二年間手足の自由を失ったこともあった人物である。安政五年三月二十六日の夜、五十歳ほどの惣髪の男に導かれて家を出たまま行方不明となり、家族が方々を探しても見つからなかった。十四、五日後、親戚の渡辺洛平の家の玄関先で物音がし、出てみると一郎平がぐっすり眠っていたという。三、四日は正気を失っていたが、やがて回復した一郎平は、伊豆や箱根、小田原、江戸近郊の寺社、さらには甲州身延山や讃岐の象頭山まで、連れの男とともに諸国を巡り歩き、時には虚空を歩いたように覚えていると語った。この不思議な体験は、天狗にさらわれたものと噂された。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了(平野威馬雄 編著)・井上円了・妖怪学・明治(原著)・現代(編))
哲学者・井上円了(妖怪博士)の畢生の大著『妖怪学講義』を、平野威馬雄が編んだ普及版。円了は真の宗教信仰の障害となる迷信を打破するため、あらゆる妖しきものの正体究明に一身を捧げ、妖怪を物怪・心怪・理怪に大別し、物怪心怪を仮怪(説明可能な迷信)、理怪のみを真怪とした。本書は理学・心理学・宗教学・雑の各部門から具体例を抄録する。序ではコックリ(狐狗狸)を西洋のテーブルターニング由来の無意識筋肉運動と解明。