浦種次の話並に伊右衛門後家の話
どんな伝承か
呑海谷の奥に香川氏の別荘があり、後に益田良輔氏の別荘となった。門を入って七八間行くと右手に井戸があり、その傍らの小屋に伊右衛門という老爺が老妻と共に住んでいた。夏の夜、爺が他行した日には、しばしば火が出て前の庭を東西に走り廻り、井戸の周りを二三回廻って消えた。姥は常に見ているので格別恐れなかったという。その後この小屋に浦種次が一家三四人で住んだが、火は見なかった。ただ一夜、種次が独り他行して夜のまだ更けぬ頃に帰り、門に入ろうとすると、たちまち門に牆が出来て進めず、後にも右にも左にも牆が出来た。声を挙げて救いを求め、家人が来て見ると、下の谷道の方へ行って迷っていたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(編:藤田葆/増補:今田純一/付録:静間密)・天保年間成立・明治期増補(原本明治四十三年成稿)/昭和51年(1976)岩国徴古館刊)
岩国藩士・広瀬喜尚(仁兵衛、天保頃の博識家)がまとめた郷土怪談集を核に、明治期に今田純一(散木園主人)が二十余条を増補(追加)し、さらに藤田葆が古老聞き取りの『続怪談録』・歴史的瑞兆を集めた『実事談』・幼童の変死記録を集めた『変死部』を継ぎ、巻末に静間密の怪火・投石怪五話を付録とした、岩国・錦見・横山周辺を舞台とする総合怪異録。