横山の鉦打ち小僧の事
どんな伝承か
ある人が夜更けに横山へ帰る途中、今の裁判所の前の横町に差し掛かると、鉦の音が数多く聞こえた。向こうを見れば二、三十人ばかりが鉦を打ちながら来る。僧なので、旧太夫今田氏の裏門のあたりに避けて立っていると、間もなく前に来たのを見ると、十二、三歳から十五、六歳ほどと見える雛僧が列をなし、六部のように腰に各々鉦を着けている。それを打ちながら乗越の方へ行った。横山内にはこの頃、寺に僧は多いけれども、これほどの雛僧はいなかったので、どこの寺に住み、何のために鉦を打ち、誰の回向をしているのか、訳の分からぬことであったという。
原典より
或人、夜ふけて横山に帰るさ、今裁判所の前、横町に差掛りしに、鉦の音、数多く聞えけるより向ふを見れば、二三十人計り鉦を打つて来る。—— 岩邑怪談録(広瀬喜尚(編:藤田葆/増補:今田純一/付録:静間密)・天保年間成立・明治期増補(原本明治四十三年成稿)/昭和51年(1976)岩国徴古館刊) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(編:藤田葆/増補:今田純一/付録:静間密)・天保年間成立・明治期増補(原本明治四十三年成稿)/昭和51年(1976)岩国徴古館刊)
岩国藩士・広瀬喜尚(仁兵衛、天保頃の博識家)がまとめた郷土怪談集を核に、明治期に今田純一(散木園主人)が二十余条を増補(追加)し、さらに藤田葆が古老聞き取りの『続怪談録』・歴史的瑞兆を集めた『実事談』・幼童の変死記録を集めた『変死部』を継ぎ、巻末に静間密の怪火・投石怪五話を付録とした、岩国・錦見・横山周辺を舞台とする総合怪異録。