横山、野村氏借宅エ石投ノ事
どんな伝承か
明治三十九年秋、横山の山手小路東側にある高橋覚所有の宅を、岩国中学の書記を勤める野村透が先年から借りて住んでいた。この頃、どこからともなくこの家へ石が投げ込まれ、昼夜の別がなかった。御城山から来るかと見れば北から、また東からも来る。多くは屋根に落ちて瓦を破った。中学の者がしきりに行って気を付けても発見できず、巡査が昼夜番をしても見咎められない。石は角の立った山石であった。石投げの上手な少年に投げさせても、石はこの宅までは届かなかった。柳井の下婢を疑って返しても石は来、近所の者の仕業でもなかった。十余日で止み、遂に何者の所為か分からず、狸の仕業かと世人は評した。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(編:藤田葆/増補:今田純一/付録:静間密)・天保年間成立・明治期増補(原本明治四十三年成稿)/昭和51年(1976)岩国徴古館刊)
岩国藩士・広瀬喜尚(仁兵衛、天保頃の博識家)がまとめた郷土怪談集を核に、明治期に今田純一(散木園主人)が二十余条を増補(追加)し、さらに藤田葆が古老聞き取りの『続怪談録』・歴史的瑞兆を集めた『実事談』・幼童の変死記録を集めた『変死部』を継ぎ、巻末に静間密の怪火・投石怪五話を付録とした、岩国・錦見・横山周辺を舞台とする総合怪異録。