武生の心あひの風の歌
どんな伝承か
日本海の側では東は津軽の岬端から西は島根県の一部まで、アイの風の名がほぼ一続きに行われ、言葉がきれいなために時々は歌謡の中に入って、海からやや入り込んだ土地にまで伝わり記憶されている。越前の武生などには、今でも汽車が通るたびに必ず思い出す中世の遊女の歌がある。「武生のこふ(国府)に我ありと、親には申したべ心あひの風、さきんだちゃみちの口」。かつてこの都会が東西交通の要衝であった時代に、遠くこの風の風下の方からさすらって来たと称する女たちが、しばしばこう歌を唱えて旅人の哀れみを誘おうとした。心あひの風はいわゆる掛け言葉で、風を孤独の身の友と呼びかけたのであろう。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第1巻(柳田国男・定本柳田国男集)
柳田国男編『定本柳田国男集 第1巻』を全451話・伝説(1見出し=1話)単位で収録(緒言・序・名義・解説・和歌・注は除外/内包)。所在地(郡村区・社寺)を付して集成。