河太郎と酒を酌む吉久木の老婆
どんな伝承か
五島福江の吉久木に、一軒家で暮らす老婆がいた。ときおり一人で楽しげに酒を酌み交わしているので訳を尋ねると、河太郎を相手に飲んでいるのだと答えた。世間は悪戯者のように言うけれど、おとなしくてかわいいものだ、姿は赤ん坊のようで頭に鉢をのせている——そう老婆は語ったという。同じ集落には塚さんと呼ばれる男もいて、どこか常人と違うところがあり、日ごろから河太郎と行き来しては、頼まれると病人の見立てまでした。塚さんによれば、五島の河童の総大将は大円寺川の水神の淵に棲む河太郎で、自分とは無二の親友なのだという。夏から秋にかけては、その大将と大円寺川の石橋の上でよく相撲をとったと話していた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・昭和)
武田静澄『河童・天狗・妖怪―民俗随筆』。全国の妖怪伝承を天狗・河童・ざしき童子・妖怪心理の四部で随筆風に集成する。天狗篇では天狗の団扇・誕生、祈禱くらべ、天狗に憑かれた女、幻術つかい、神かくし、天狗にさらわれた人々(お庭番のゆくえ・天から降った男・ふたり夫・天狗六兵衛・おかんの末路)、神かくしにあう心理、ぐひん餅と山荒れ、天狗の相撲場などを収める。