日金地獄
どんな伝承か
天正十年師走二十一日、徳川家の使者朝比奈弥太郎は、小田原の北条家へ進物を届けた帰りに、供を連れて湯河原から日金越にかかった。日金の人家の灯を過ぎると、日金堂と呼ばれる地蔵堂の前に石の閻魔と三途川の婆が並び、ここも地獄の一つとされていた。暗い下り坂の曲がり角に、松明を灯し鉄棒を杖にした赤黒い顔の大入道が立っており、下から女の子が来たら、ここで待っている者があると伝えてくれと言った。やがて岩陰から白い影がよろよろと現れ、十五、六の娘が馬の傍を通り過ぎた。間もなく坂の上で女の悲鳴が上がり、物を打つ凄まじい音が響いた。朝比奈は、娘を責めるのはあの大入道だと思い、黙って馬を進めた。
原典より
背の高い、顔の赧黒い大入道で、それが隻手に鉄棒のようなものを杖にしていた。—— 日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年))
『日本の怪談』は、田中貢太郎の怪談を昭和四十五年桃源社刊『日本怪談全集』から抜き出した文庫本で、昭和六十年十二月に河出書房新社から発行された。「宝蔵の短刀」「八人みさきの話」など土佐の城下や村の話をはじめ、江戸・京・吉野などを舞台にした幽霊・狐狸・猿・魔物の話を、会話の多い語り口で収める。二十七篇の後に尾崎秀樹の解説を付し、高知に生まれた作者の生涯と怪談・妖異譚への傾倒をたどっている。