ほど落ちの池で片腕を失った猪作
どんな伝承か
お種が姿を消し、村の者は組を分けて探した。日浦坂を越える一組が坂の上のほど落ちの池の傍まで来ると、誰からともなく池を見ようと言い出した。雑木の下を潜って青く澄んだ水の縁へおりると、汀の水草にお種の櫛が流れかかっていた。猪作が入ってみようと言って衣と脚袢を脱ぎ、池へ入って潜った。煙草を一服吸うほどの間を置いて、潜った処から二間ばかり前の水面が傘を拡げたようにぱっと赤く濁り、腹をかえして浮きあがってきたのは、右の腕を附け根から切り取られた猪作の死骸であった。切口には生々しい血が見えていた。人びとは声をあげて逃げ、以来ほど落ちへ探しに行く者はなく、お種も同じ死に方をしたものとして家では命日を定めて冥福を祈った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ・明治末~大正期(推定))