夫の死後、家中の道場師範となった粗野な剣客芳野與三右衛門が
どんな伝承か
明治の革命で徳川家が静岡へ移ると、江戸本所の大川端に邸を持っていた最上駿河守も一族家臣を率いて所領の近江国蒲生郡大森村へ移り住んだ。大森村では布施仙左衛門が長く代官を勤めていたが、駿河守が陣屋に入って宮田忠左衛門が万端の事務を執るようになると代官の仕事はなくなり、仙左衛門は淋しげに陣屋へ出ては帰った。訴訟に負けた村の者が賄賂の噂を口にするようになると、功名心の強い忠左衛門は仙左衛門の裁いた裁判に疑いをつけはじめる。やがて未亡人となったお糸は忠左衛門への復讐心に苛まれ、江戸で抱えられた山形生まれの剣客芳野與三右衛門が布施家に入り浸るようになった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集・大正~昭和初期(推定))
本書『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎による幕末から昭和初期にかけての日本各地の怪談・奇談を集成した作品である。明治維新期の松木事件から関東の連続殺人鬼事件まで、実地取材に基づく歴史的事件の記録と、民間に伝わる幽霊譚・怪異現象が混在している。特徴は、単なる怪談の創作ではなく、実在の地名・人物・事件を背景に、社会的矛盾や人間の怨恨が生み出す超自然現象を描く点にある。