駅名表示のない東京駅ホーム
どんな伝承か
六十歳になる九州の母が初めて上京し、博多からひとりで新幹線に乗って東京へ着いた。ところがホームに迎えに来ているはずの娘の姿がない。乗り過ごしたのではないかと心細くなり、居合わせた人に、ここは東京でしょうか、と尋ね、念のためもう一人にも確かめた。確かに東京駅だったが、新幹線のホームには柱にもどこにも、とうきょう、という駅名表示が一つも見当たらなかったのである。十分ほど遅れて駆けつけた娘を見て母は涙ぐみ、東京ならそう書いておいてくれれば着いたという気分になれるのに、とあとで語った。
原典より
自分の所から二十里ほどの後藤野の話。—— 現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・民話・口承文芸・昭和〜平成) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・民話・口承文芸・昭和〜平成)
松谷みよ子『現代民話考 ― 偽汽車』を小話単位で全525話収録。汽車・船・自動車などの乗り物にまつわる現代の民話・怪談を全国から採集。狐狸が汽車に化ける偽汽車、船幽霊、タクシーに乗る幽霊などを地域・話者つきで収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明496話・市区町村判明359話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。