日加田の下女に蛇、執心の事
どんな伝承か
ある夜、下女の夢に五尺ばかりの大蛇が天井から下がり、下女の口を舐めようとした。汗が水になるほど驚いて夢から覚め、それから心地が悪かったが、気分をおさえて翌日も起きていた。その日のうち、後ろの山根に出て布を洗っていると、上の山がさわさわと鳴った。振り返ると、昨夜の夢に見たのと違わぬ大蛇が、胸を地につけ尾と頭を上げて、下女めがけて来る。下女は驚き慌てて家に走り込んだ。蛇は下女が布を洗っていた所へ来て、下女のいた跡を見返りながら這い回り、逃げ込んだ戸口を恨めしげに見やって、また山へ這い込んだという。
原典より
或夜、下女の夢に五尺計りの大蛇、天井より下女の口を舐んとするを見て、汗、水になりて夢さめけるが、夫より心地あしく覚へけるが、気分をおさへて明の日も起き居けるが、其日ほどに、後ろの山根に出て、布を洗ふ折ふし、上の山、さわさ…—— 岩邑怪談録(広瀬喜尚(編:藤田葆/増補:今田純一/付録:静間密)・天保年間成立・明治期増補(原本明治四十三年成稿)/昭和51年(1976)岩国徴古館刊) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(編:藤田葆/増補:今田純一/付録:静間密)・天保年間成立・明治期増補(原本明治四十三年成稿)/昭和51年(1976)岩国徴古館刊)
岩国藩士・広瀬喜尚(仁兵衛、天保頃の博識家)がまとめた郷土怪談集を核に、明治期に今田純一(散木園主人)が二十余条を増補(追加)し、さらに藤田葆が古老聞き取りの『続怪談録』・歴史的瑞兆を集めた『実事談』・幼童の変死記録を集めた『変死部』を継ぎ、巻末に静間密の怪火・投石怪五話を付録とした、岩国・錦見・横山周辺を舞台とする総合怪異録。