中野哲也の念写目撃と転向
どんな伝承か
西桂村の小学校で訓導をしていた中野哲也は、物理学を好む物質科学主義者で、念写など手品だと笑っていた。同僚の渡邊偉哉が凝念法の講習や断食修養から戻って奇妙な振る舞いを見せても冷ややかに眺め、念写に成功したという話も信じなかった。だが正直者の米山耕夫までが不思議だと言うので、自分で確かめることにした。四月二十一日、同僚の三浦と谷村町の薬舗で乾板を買って封をさせ、校長の狛俊英に預けた。校長はそれを自宅の書庫にしまい、翌日の実験の場へ持って来た。尋常科六年の教室で職員九名が立ち会うなか、教壇の卓に置いた乾板から四尺余り離れて渡邊が念じたのは、首席訓導の芹澤が出した『神通力』、額に書かれた文字から採った『孝』、そして自分の名の三つである。宿直室の押入を暗室にして現像すると、冷やかす中野の前で八分後に『神通力』、十分後に『孝』の字が浮かんだが、名を念じた六枚目は十八分待っても何も現れなかった。中野はこれを境に念写の実在を認めたという。一連の経過は、五月三日付で職員たちが署名した証明書に記されている。
原典より
すると、其内に、明瞭に神通力の三字が現はれ、続いて孝の字も現はれて来た。—— 現代心霊現象之研究(エッチ・カーリントン・心霊研究・1924年(大正13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代心霊現象之研究(エッチ・カーリントン・心霊研究・1924年(大正13年))
『現代心霊現象之研究』は、米国のエッチ・カーリントンが一九一九年に著した『現代心霊現象』の関昌祐による訳書で、訳者の序辞は大正十三年五月二十日付である。心霊現象と進化論・心理学・生物学・倫理学の関係を論じる部と、霊媒ユーサピアの回想、幽霊、心霊写真、心霊体の投影、憑きもの、エルバーフェルトの馬、植物の霊などを扱う部から成る。巻頭に福来友吉の序文、巻末に山梨県の渡辺偉哉の念写実験と福来の念写理論を記す附録と、水晶球凝視の実験報告を置く。