食糧難の家を出て屋敷へ移った黒猫
どんな伝承か
昭和二二年ごろ、敗戦直後の藤沢市での話。八人家族の食卓もろくに整わない時代で、飼っていた金色の目の黒猫クロにまで食べ物は回らなかった。ある日、母がクロの頭をなで、たくさん食べさせてくれる家を見つけて可愛がってもらいなさい、と言い聞かせて何度も頬ずりをした。その晩、クロは家から姿を消した。半月ほどたった夕暮れ、家の近くの屋敷町を歩いていると、足もとに黒猫がすり寄って鳴き、顔を押しつけてきた。もう一声鳴くと、猫は薄闇のなかの社長邸の裏門へ走り込んでいった。母の言葉どおりにしたのだと、語り手も母も涙をこらえられなかったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 10 狼・山犬、猫(松谷みよ子・現代民話考・1970年代~1980年代推定)
松谷みよ子『現代民話考 10 狼・山犬、猫』を小話単位で全541話収録。狼・山犬・猫にまつわる現代の民話・怪異譚(送り狼・化け猫など)を全国から採集し収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明535話・市区町村判明490話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。