九○年ほど前のことだが、三峰川谷杉島の四郎衛門――シ
どんな伝承か
九〇年ほど前のこと、三峰川谷の杉島に四郎衛門――普通はシロエムと発音する――という人がいた。秋の夜、シシ追い小屋で「ホーイ、ホーイ」と呼ばわって猪を追っていると、その声を聞きつけて現れた狼に襲われ、傷を受けた。悲鳴を聞いた隣の猪小屋の、杉島の新屋の主人が救援に駆けつけ、狼の口めがけて自分の腕をぐっと差しこみ、ひるむところをシロエムが撲殺した。シロエムの頭には大乱闘を物語る傷あとが長く残り、通ると子供たちが指さして感嘆したが、その後狂犬病が出なかったので狂犬ではなかったと分かったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 10 狼・山犬、猫(松谷みよ子・現代民話考・1970年代~1980年代推定)
松谷みよ子『現代民話考 10 狼・山犬、猫』を小話単位で全541話収録。狼・山犬・猫にまつわる現代の民話・怪異譚(送り狼・化け猫など)を全国から採集し収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明535話・市区町村判明490話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。